
リクルートワークス研究所の発表した「働き方の定点観測2024」をもとにした記事です
2024年の日本の働き方を定点観測すると、長時間労働の是正や出産離職率の低下など、数字上は着実に前進しています。しかしその内側を詳しく見ると、興味深い対照が浮かび上がります。テレワーク実施率は2年連続で減少し9.9%に留まる一方、就業時間中に中抜けができる割合は30.1%へと緩やかに上昇しました。さらに、不本意非正規雇用者の割合は減少しているにもかかわらず、正規雇用への転換率は6.6%と過去最低水準まで落ち込んでいます。
これらのデータが示す「柔軟性のパラドックス」は、働き方改革の成果と課題が交錯する日本の現実を象徴しています。リクルートワークス研究所の「働き方の定点観測2024」をもとに、ここでは日本の労働市場が抱える構造的なテーマを丁寧に読み解いていきます。
- リクルートワークス研究所「働き方の定点観測―JPSEDで見る日本のトレンド―2024」
- パーソル総合研究所「第10回・テレワークに関する調査」
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「『二極化』以後の非正規雇用・労働」
- 国立社会保障・人口問題研究所「第一子出産前後の女性の就業継続はどのように変化したか」
- 厚生労働省「令和6年版労働経済の分析」
データで見る2024年の日本の働き方の特徴は?


着実に進む指標――長時間労働是正と女性活躍の前進
2024年の日本の働き方には、明らかに改善している分野があります。特に顕著なのが長時間労働の是正です。月あたり法定外労働時間が45時間を超える雇用者の割合は5.2%となり、前年より0.4ポイント減少しました。
正規雇用者に限定しても7.6%と、2016年以降は一貫して減少傾向が続いています。働き方改革関連法の施行以降、企業の意識変化と実務的な取り組みが少しずつ根づき、成果として表れ始めたことがわかります。
女性活躍の進展――次世代へのパイプラインが見え始める
女性活躍の面でも、確実に前進が見られます。特に注目すべきは、係長・主任級における女性の割合が25.9%に達した点です。前年比で1.7ポイント上昇しており、部長級や課長級と比べても明らかな伸びを示しています。これは単なる数字上の改善ではなく、管理職層に至るまでの「パイプライン」が少しずつ形成されていることを意味しています。
この変化は、10年後・20年後の経営層の多様性を左右する構造的な変化といえるでしょう。企業が女性のキャリア形成を中長期的な投資としてとらえ始めていることの現れでもあります。
子育てと仕事の両立――離職率の低下が示す構造変化
子育てと仕事の両立環境も、確実に整いつつあります。第一子出産時の離職率は26.3%まで下がり、2015年の46.3%から約20ポイントもの改善を見せました。育児休業制度の拡充や企業側の柔軟な復職支援の広がりが、離職抑制につながっていると考えられます。
さらに、家族を介護しながら働く人の割合も80%を超えており、ライフイベントが直ちに離職につながる構造は少しずつ変化しています。こうした流れの背後には、育児や介護を担う世代を戦力として位置づけ直そうとする企業の意識変化があります。働き方改革の理念が、単なる制度整備から「人を活かす運用」へと移りつつあるといえるでしょう。
賃金構造にも変化――若年層上昇と年功カーブの緩和
賃金面にも注目すべき動きがあります。過去10年間で年齢による賃金格差は縮小し、特に20〜30代の水準が50代に比べて顕著に上昇しました。男女間の賃金差も緩やかながら縮小傾向にあり、人手不足を背景に若年層への賃金上昇圧力が強まっています。
この背景には、年功序列の緩和やジョブ型雇用の浸透といった構造的な変化もあります。年齢ではなく職務・成果を基準にした評価が広がり、企業の報酬体系がゆるやかに再設計されている段階にあるといえるでしょう。
若手の賃金が上昇することで、キャリア初期の選択肢が広がり、長期的な職業意識にも影響が出てきています。
停滞する指標――テレワークと不本意非正規の正規転換


テレワーク実施率の減少が示す構造的課題
ただし、すべての指標が前向きに進んでいるわけではありません。象徴的なのがテレワーク実施率の低下です。週1時間以上テレワークを行う雇用者の割合は9.9%に留まり、2年連続の減少となりました。2022年のピーク時と比べると約3ポイント下がっています。
制度導入企業の割合は29.5%と一定水準を維持していますが、自身に適用されている人は16.0%にとどまり、実際の実施率との間には約20ポイントの開きがあります。つまり「制度はあるが使われていない」状態が広がっているのです。
この乖離は、単なる環境整備の遅れではなく、「使いにくさ」や「心理的ハードル」が制度の利用を阻んでいる可能性を示しています。形式的な制度整備から、利用実態に即した運用設計への転換が求められます。
不本意非正規雇用の正規転換率低下――量から質への転換点
もう一つの停滞指標が、不本意非正規雇用者の正規転換率です。不本意非正規とは「正社員の職がなく、やむを得ず非正規として働いている人」を指します。この割合自体は減少傾向にあり、非正規雇用全体に占める比率も下がっています。
一見すると良い兆しに見えますが、実際にはその先の動きが鈍化しています。不本意非正規雇用者が翌年に正規雇用へ転換する割合は6.6%と、前年より1.2ポイント低下し、過去最低水準となりました。
これは、移行しやすい層がすでに正規雇用へ移った一方で、年齢・スキル・地域などの制約が重なる層が残っている可能性を示唆しています。つまり、不本意非正規問題は量的には縮小しても、質的にはより複雑で根深い課題へと変化しているのです。
「柔軟性のパラドックス」――なぜテレワークは減り、中抜けは増えるのか


テレワーク減少の背景にある構造要因
テレワークの実施率が下がっている要因は、単なるコロナ禍の反動では説明しきれません。パーソル総合研究所の調査によると、2024年のテレワーク実施率は22.5%と前年とほぼ同水準を維持していますが、内訳では「週1日以下」の低頻度テレワーカーが増えています。つまり、完全な出社回帰ではなく、限定的な利用への移行が進んでいるのです。
企業側の主な懸念は「コミュニケーションの質の低下」です。日本企業では暗黙知の共有や“阿吽の呼吸”による協働が重視されてきました。テレワークではこうした非言語的なやり取りが難しく、生産性への不安を招きやすい構造があります。
また、成果主義が十分に浸透していない組織では「見えない社員」を正当に評価しにくく、管理職側の不安が強まる傾向もあります。特に新入社員や若手社員にとっては、オフィスが単なる作業場ではなく“学びと関係構築の場”であることを考えると、出社回帰を求める動きにも一定の合理性があるといえるでしょう。
働く側の変化――柔軟性を「場所」ではなく「時間」に求める傾向
テレワークが減少する一方で、中抜けや時差出勤といった「時間の柔軟性」を取り入れる企業は増えています。リクルートワークスの調査によると、勤務時間中に中抜けが可能な人の割合は2020年の18.4%から2024年には30.1%へと上昇しました。
この傾向は、働く側のニーズが「どこで働くか」よりも「どう時間を使うか」へと移行していることを示しています。
日本では依然として「職場にいること」が信頼の前提とされやすく、完全なリモートワークを導入するには文化的・組織的なハードルが残ります。その中で、中抜け制度は出社文化と柔軟な時間運用を両立させる“現実的な解”として受け入れられ始めたといえるでしょう。
特に子育て世代や介護を担う層では、通院や送迎など短時間の私用を挟めることで日常生活のストレスが軽減され、就業継続のハードルが下がります。こうした“マイクロ・フレキシビリティ”は、フルリモートほどの制度改革を伴わずとも導入しやすく、実務に支障を与えにくいという利点もあります。テレワークほど派手ではないものの、現場で確実に機能し始めている柔軟性といえるでしょう。
組織運営の観点――“見える化”を重視する日本企業の文化
多くの企業でテレワークが減った背景には、「業務の透明性」と「成果の共有」という日本特有のマネジメント文化も影響しています。
上司や同僚の目が届く環境で業務を進めることで、自然と進捗を共有できる“暗黙のマネジメント”が成立してきました。これがリモート環境では機能しにくくなるため、管理職が不安を感じやすいのです。
さらに、現場のリーダー層からは「若手が育たない」「チームの一体感が損なわれる」といった懸念も多く聞かれます。職場の学習・協働の仕組みが出社前提で組み立てられてきた以上、テレワークを継続的に運用するには再設計が必要になります。
つまり、テレワークの課題は制度ではなく運用の問題です。働く人の評価基準・情報共有・コミュニケーション設計が整えば、実施率は再び上昇する可能性があります。現時点では、制度よりも文化やマネジメントの再構築が問われている段階にあるといえるでしょう。
中抜け制度が広がる理由――「共有」と「裁量」の折り合い
中抜けが広がる背景には、テレワークとは異なる“文化的な適合性”があります。
まず、出社を前提にしたまま柔軟な時間配分を認めることで、上司やチームとの「物理的な共有」を維持できる点です。日本の職場では、会議や雑談など非公式なコミュニケーションの中に多くの調整や学びが含まれており、これを完全にリモートで再現するのは難しいといえます。中抜け制度は、そうした「場の共有」を崩さずに個人の裁量を広げるための中間解として機能しているのです。
また、企業側にとっても導入コストが低く、管理もしやすいという利点があります。就業規則の修正やフレックス制度との併用で運用できるため、大きな制度改定を伴わずに柔軟性を提供できるのです。こうした“導入しやすさ”が、テレワークよりも中抜けを選ぶ企業を増やしている要因と考えられます。結果として、柔軟性の主軸が「場所」ではなく「時間」に移行する構図が生まれました。
不本意非正規の「残余化」――数字が示す次の課題
不本意非正規雇用者の割合は低下しているにもかかわらず、正規転換率が6.6%と過去最低を記録したのはなぜでしょうか。
考えられるのは、転換しやすい層がすでに正規雇用へ移り、残った層が年齢・スキル・家庭環境など複合的な制約を抱えているという構造的要因です。つまり、数は減っても中身が難化している状態、これが「残余化」と呼ばれる現象です。
また、企業側の採用ニーズも変化しています。かつては人手不足対策として非正規から正規への登用を積極的に行う企業も多くありましたが、近年はDX推進や高度な専門性を求める傾向が強まり、「即戦力」を重視する流れに戻りつつあります。
結果として、再就職支援や教育訓練の機会が少ない層が取り残され、構造的な格差が再生産されるリスクが高まっています。不本意非正規の減少を「解決」と見なすのではなく、その内訳を丁寧に分析する視点が欠かせません。ここを誤ると、政策的な支援が空回りする可能性があります。
リスキリングの現在地――「学び直し」が進まない三つの壁


企業のOJT・Off-JTは回復傾向も、浸透には課題
企業内での学び直しは、表面的には回復しつつあります。OJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の実施率はコロナ禍直後よりも持ち直し、再び人材育成の機会が増え始めています。
しかし、実施内容を見ていくと、研修対象の多くが正社員に偏っており、非正規社員への教育投資は依然として限定的です。短時間勤務や派遣社員を含む層に対して体系的な育成の仕組みを設けている企業はまだ少なく、「人手不足」と「スキル不足」が同時に進行している現状があります。
これは、企業が抱える“時間と費用の制約”に加え、学んだ成果を評価や昇進に反映しづらいという構造的な問題とも関係しています。学びが処遇につながらない限り、投資としての動機づけが働きにくいのです。
一方で、デジタル人材育成の分野では前向きな動きも見られます。ITツール研修や生成AIの活用講座など、比較的短期間で効果が見込めるテーマが増え、若手中心に受講が広がりつつあります。こうした「すぐ使える学び」を足がかりに、企業全体の学習文化を再構築していく流れが重要になっています。
自己啓発が伸び悩む理由――時間・費用・目的意識の三重苦
個人による自主的な学びも、期待ほど進んでいません。
自己啓発の実施率は30%台前半で横ばいが続き、2010年代初頭と比べても大きな変化は見られません。理由として多く挙げられるのが「学ぶ時間が取れない」「費用が負担」「何を学べばよいか分からない」という三つの壁です。
これは、単に意欲の問題ではなく、社会全体の仕組みとして学びを“実行に移せる構造”が十分に整っていないことの表れといえます。
まず、時間の壁については、仕事と家庭の両立を前提に学びを設計する必要があります。学習有給制度や、勤務時間の中に学びのスロットを確保する「ラーニング・タイム」の導入など、柔軟な制度設計が有効です。費用面では、教育訓練給付金などの公的支援制度を活用しやすくするために、申請プロセスの簡素化や対象講座の拡充が求められます。
さらに「何を学べばよいか分からない」問題に対しては、企業が職務ごとのスキルマップを提示し、キャリア相談やメンター制度と連動させることが効果的です。学びの動機を個人任せにせず、組織的に方向づけることで、自己啓発が“行動”に変わる基盤を整えることができます。
政策面での示唆――支援の「量」から「質」への転換


非正規雇用支援の次なる焦点は「残余層」への実効的支援
非正規雇用に関する政策は、これまで「正規転換の数を増やす」ことに重きが置かれてきました。しかし現状では、数を追うよりも「残っている層をどう支援するか」が重要になっています。
これまでの施策では、企業に正社員化助成金を支給するなどの“インセンティブ型”の支援が中心でしたが、近年はそれだけでは機能しにくくなっています。
たとえば、年齢が高く再訓練が難しい層や、地方で就業機会が限られている層に対しては、訓練・実習・配置を一体で行う「トライアル型支援」の方が効果的です。職務体験と職業訓練を結びつけることで、転換後のミスマッチを減らし、定着率を高める狙いがあります。
また、政策設計の段階で「学び」と「雇用」を別々に扱うこと自体が課題でもあります。訓練を終えた人がすぐに活かせる職務に就けるよう、企業・自治体・教育機関の連携を強化し、支援のループを閉じる必要があります。
単発の補助金ではなく、スキルの獲得から雇用定着までを一貫して支える構造的支援へ。それが次の10年に求められる方向性といえるでしょう。
学び直し政策の焦点――「給付」より「伴走」に重点を
政府はリスキリング支援を強化する方針を示しており、教育訓練給付金の拡充やDX関連講座の増設などが進められています。
ただし、給付額を増やすだけでは学びの実行率は高まりません。必要なのは、学びを“続けられる伴走支援”です。たとえば、オンライン講座の受講支援だけでなく、学習計画の立案・進捗確認・転職支援を含めた一体型のサポート体制があれば、離脱率を大幅に下げられます。
また、学び直し後のキャリア活用を見据え、民間企業との協働モデルを拡充することも有効です。再就職先でスキルがどのように使われるかを具体的に設計することで、学びがより実務的な意味を持つようになります。
政策の役割は「学ぶ人を増やす」ことから「学びを生かせる人を増やす」ことへ。支援の重心を“給付から伴走へ”移す発想が、これからの社会には求められています。
企業が取り組むべき実践策――制度より「使われる設計」へ


評価と運用の見直しで“使いやすい柔軟性”を
テレワークや中抜けなど、柔軟な働き方の制度を整える企業は増えましたが、実際に利用する人は限られています。制度が「あるだけ」で終わる背景には、評価制度の不透明さや、上司の理解度のばらつきが関係しています。
働く人が安心して制度を使えるようにするには、まず評価基準の明確化が欠かせません。OKRやMBOなど、成果を定量的に把握できる仕組みを導入することで、「見えない不安」を減らすことができます。また、管理職層に対して柔軟な働き方のマネジメント研修を行うことも効果的です。利用者への偏見を防ぎ、チーム全体で制度を活用できるようにすれば、導入後の実施率は自然に高まっていくでしょう。
さらに、制度利用者の実例を社内で共有することも大切です。中抜けや時短勤務、リモート勤務などを実際に活用している社員の事例を紹介し、「使える雰囲気」を可視化することが利用促進につながります。制度を整えるだけでなく、運用プロセスや評価の仕組みまで含めた「使われる設計」へ移行することが、企業が今取り組むべき方向性です。
非正規雇用者にも学びとキャリア機会を開く
現場では、非正規社員や派遣社員が業務の中核を担う場面が増えています。にもかかわらず、教育訓練やキャリア形成支援の機会は正社員に比べて限定的なままです。
この状況を放置すれば、スキルギャップが拡大し、結果的に生産性の低下や人材流出を招く恐れがあります。企業は、非正規社員にも学習機会を開き、スキル取得と処遇改善を連動させる仕組みを整える必要があります。
具体的には、正社員と共通の研修をオンラインで受講できる仕組みや、社内資格制度の受験要件を広げるなど、「参加しやすい構造」をつくることが有効です。こうした施策は短期的にはコストですが、中長期的には職場全体の安定と生産性向上につながります。非正規社員を単なる労働力ではなく「学びを共有する仲間」として位置づけ直す発想が、これからの人材戦略には欠かせません。
個人が取りうる戦略――柔軟性は「与えられる」ものではなく「選び取る」もの


自分に合った働き方を“交渉”していく時代へ
働き方の柔軟性は、制度として与えられるものではなく、自ら選び取る時代に移りつつあります。テレワークが難しい職場でも、中抜けや時短、フレックス勤務など、組み合わせ次第で「続けやすい働き方」は設計できます。
まずは、自分の生活リズムや家庭環境に合わせて、どの時間帯・頻度で仕事が最も集中できるかを整理し、上司や人事と具体的にすり合わせてみましょう。個別相談を重ねることで、制度の枠を超えた柔軟な働き方が実現するケースも少なくありません。
制度を“使う側”として主体的に関わる姿勢が、結果的に職場全体の柔軟性を広げていくことにもつながります。
学び直しは「完璧」より「継続」を重視
リスキリングや資格取得などの学び直しは、いまやキャリア形成の必須要素になっています。
ただし、学びを始める段階で「何を」「どれくらい」学ぶかにこだわりすぎると、行動が止まりやすくなります。重要なのは、短時間でもいいので“続けられる形”をつくることです。たとえば、週1回1時間だけ業務に関連するテーマを学ぶ、オンライン講座を1コマだけ受けてみるなど、無理のないスモールステップから始めるのがおすすめです。
学びは一度に大きく変えるものではなく、少しずつ積み重ねていくもの。継続することで、新しい知識やスキルが自然に仕事へ結びついていきます。制度や支援は“使ってみる”ことで理解が深まるものです。遠慮せず申請し、経験を通じて自分なりの学び方を見つけていくことが、長く働き続けるうえで大きな力になります。
総括――柔軟性の“多様化”を設計し、質で前へ


2024年のデータが示すのは、日本の働き方改革が「次の段階」に入ったという現実です。
長時間労働の是正や女性の活躍推進など、表面上の指標では確かな前進が見られる一方で、テレワークの減少や正規転換率の停滞といった“柔軟性の歪み”が浮かび上がっています。つまり今、日本社会は「制度が整っても現場が動かない」状態に直面しているのです。
この構造を変える鍵は、柔軟性を「単一の制度」としてではなく、「複層的な設計」として再構築することにあります。
テレワークか出社かの二択ではなく、時間単位で中抜けを認める仕組みや、在宅と出社を組み合わせるハイブリッド型勤務、短時間正社員や副業制度など、複数の選択肢を併存させることで初めて“現場に根づく柔軟性”が実現します。
制度が使われるためには、心理的安全性と評価の透明性を両立させることが欠かせません。働く人が「使っても不利にならない」と確信できる環境を整えることが、真の意味での改革につながります。
政策・企業・個人――三者がつくる「実感のある変化」
政策面では、支援の“量”よりも“質”を重視する方向に転換することが求められます。
不本意非正規の「残余化」に対しては、リスキリングと転換インセンティブを一体化した支援を拡充し、実務に結びつく形で再就職を支えることが効果的です。また、教育訓練給付金などの学び支援制度も、単なる給付ではなく「伴走型支援」へと進化させる必要があります。学びが行動へ、行動がキャリアへつながる流れを構築することが、今後の成長基盤を強くします。
企業は、「制度を作る」段階から「制度を運用し続ける」段階へと意識を変える時期にあります。評価制度の透明化や上司のマネジメント研修、利用事例の共有を通じて、“使われる柔軟性”を社内文化として根づかせることが重要です。さらに、非正規社員にも学びとキャリア機会を開くことで、人材全体の底上げを図る。これが、持続的な成長を支える戦略になります。
そして個人もまた、自分の働き方や学び方を“選び取る主体”として動くことが求められています。テレワークや中抜けなどの制度を積極的に活用し、自分にとって続けやすいスタイルを見つけることが第一歩です。また、学び直しは完璧さよりも継続を意識し、生活に組み込みながら少しずつスキルを積み上げていく。その積み重ねが、長期的なキャリアの安定と成長につながります。
これからの10年に向けて――“制度の数”ではなく“使われ方”の質を問う
柔軟性の時代において、問われるのは「制度の有無」ではなく「どれだけ使われているか」です。
テレワークが減り、中抜けが増えるという一見逆説的な動きは、制度そのものよりも“文化と実務が折り合う地点”を探る日本型改革の姿を映しています。中抜け制度の浸透は、柔軟性が時間軸にシフトしたことを示す象徴的な現象といえるでしょう。
働き方改革の本質は、法律や仕組みの整備ではなく、「日々の働き方を変える力を誰が持てるか」にあります。その力を政策・企業・個人が三者で共有できれば、数字上の改善にとどまらない“実感のある前進”が生まれます。柔軟性とは、与えられるものではなく、選び取っていくもの。その選択を支え合う社会設計こそが、次の10年の働き方を決める鍵になるでしょう。










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