
日本経済新聞の特集記事「惑う30代」をもとにした記事です
まず押さえておきたいのは、「30代がいない」「中堅が育っていない」という声が、すでに一部の会社の感覚ではなく、統計で裏づけられた現実になっていることです。日経新聞の読者調査では、職場で30代が「少し足りない」「全く足りない」と感じている人が合計58.6%に達していました。背景には、2008年のリーマン・ショックと2011年の東日本大震災という二つのショックを就職期に経験した「リーマン震災世代」の存在があります。
この世代は、就職氷河期世代ほど社会問題として大きく取り上げられてこなかった一方で、採用抑制や教育投資の不足といった影響を確実に受けてきました。本記事では、日経連載「惑う30代 成長の盲点」が示した論点を軸に、統計データ、国内外の研究成果、企業の先進事例を整理しながら、キャリア支援者・人事担当者に向けた「30代支援の実践指針」を提案していきます。
- 日本経済新聞「惑う30代 成長の盲点」連載(2025年11月)
- 厚生労働省『令和6年雇用動向調査』
- 総務省統計局『労働力調査』
- 大和総研『男女の所得格差の論点』(2025)
- 東京大学社会科学研究所『就職氷河期とその前後の世代について』
- OECD Employment Outlook 2024
データが語る「30代不足」の実態




採用抑制の爪痕 ― 職場から消えた中堅層
30代不足は感覚論ではなく、数字ではっきりと表れています。総務省の労働力調査によると、2024年時点の労働力人口に占める30代の割合は17%。10年前から3.7ポイント減少しており、この減少幅は就職氷河期世代を含む40代の2.7ポイント減よりも大きい状況です。つまり、単に人口が減っているという話を超えて、「30代だけが目立って薄い」ひずみが生じています。


企業側の認識もそれを裏づけています。日経の調査で「30代が足りない理由」として挙げられたのは、「過去の新卒採用が少なかった」が33.0%、「途中退職が多かった」が31.6%。両方を合わせると、約3分の2が「採用と定着の失敗」に原因を見ていることになります。採用抑制が続いた時期に十分な人数を採らなかったこと、その後の育成と処遇で30代の離職を防ぎきれなかったこと。その二つが重なり、今の「中堅不在」につながっていると考えられます。
リーマン震災世代の「二重の不遇」


こうした中で、特に見落とされがちなのが1988〜1992年生まれ前後の「リーマン震災世代」です。東京大学の近藤絢子教授は、この世代を「就職氷河期世代の陰に隠れて、あまり顧みられてこなかった」と指摘します。実際、データを見てみると、この世代の特徴がよりくっきりしてきます。
| 世代 | 出生年 | 就職時期 | 主な就職障害 | 正規雇用率(25-29歳) |
|---|---|---|---|---|
| バブル世代 | 1965-69 | 1987-92 | なし | 88.3% |
| 就職氷河期世代 | 1970-77 | 1993-04 | バブル崩壊 | 82.4% |
| リーマン震災世代 | 1988-92 | 2008-13 | リーマン・震災 | 氷河期世代並み |
バブル世代(1965〜69年生まれ)は、就職時期に大きな景気後退がなく、25〜29歳時点の正規雇用率は88.3%。一方、就職氷河期世代(1970〜77年生まれ)はバブル崩壊の直撃を受け、同年代の正規雇用率は82.4%に低下しました。リーマン震災世代は、就職期がちょうど2008〜2013年に重なり、リーマン・ショックと震災後の景気悪化の両方を経験しています。その結果、若年期の正社員比率は就職氷河期世代と同程度にまで落ち込みました。
問題は、その影響が30代以降まで尾を引いていることです。30代になっても正社員比率は十分に回復せず、バブル世代と比べて年収ベースで5〜7万円ほど低い状況が続いているとされています。加えて、20代のころに企業側に教育投資の余力が乏しく、集合研修やOJTの機会が削られた世代でもあります。つまり、「最初から正社員として入りづらかった」「入ってからも十分な育成投資を受けづらかった」という二重の不遇が、今の30代に反映されていると言えるでしょう。
30代が感じる「4つの板挟み」とその心理的影響




世代間ギャップの橋渡し役 ― 昭和と令和の板挟み
次に、30代が現場でどのような役割を求められているのかを見ていきます。日経のアンケートで「30代に期待する役割」として挙げられた項目のひとつが、「上司と後輩のコミュニケーション円滑化」。これを選んだ人は15.2%に上っており、30代が「世代の橋渡し役」として期待されていることが分かります。
ただし、現場の声を拾うと、その役割は決して軽くありません。たとえば「上司は若手育成を30代に丸投げしているが、自分もプレイヤーとしての仕事と子育てで一杯で、後輩の面倒を見る余力がない」という30代女性の声があります。また、「20代の部下は定時で帰る中、自分だけが残業を引き受けて仕事を片づけている。指導しても求める水準まで届かないので、最後は自分でやるしかない」と話す30代後半の男性もいます。
パーソルキャリアの桜井貴史氏は、30代を「昭和世代の上司をまだ理解できる最後の世代」と表現しています。上からは「昔ながらのマネジメント」を求められ、下からは「新しい価値観」を持つZ世代との橋渡しを求められる。そうした板挟みの中で、自分自身のキャリアを考える余裕を失いやすい構図が見えてきます。
年功序列と成果主義の狭間で揺れる自己評価


30代特有の葛藤は、評価や処遇の面にも表れています。日経の中堅世代調査では、「会社に重視されていると感じるか」という質問に「そう思う」と答えた割合は、20代が80.5%、40代が78.9%であるのに対し、30代は67.6%にとどまっています。また、「自分の業務が正当に評価されていないと感じる」という項目では、30代が43.3%と最も高くなっています(20代36.7%、40代41.2%)。
| 項目 | 20代 | 30代 | 40代 |
|---|---|---|---|
| 「会社に重視されている」と感じる割合 | 80.5% | 67.6% ❌ | 78.9% |
| 「自分の業務が評価されない」と感じる割合 | 36.7% | 43.3% ⚠️ | 41.2% |
ここには、制度と現場感覚のギャップがあります。表向きは成果主義をうたいながら、賃金は年功的な要素が色濃く残る会社も少なくありません。20代のうちは「これから上がっていく」と期待が持てますが、30代になると「現状の評価水準が今後も続くのではないか」という不安が生まれやすくなります。その結果、「良くも悪くも今の中堅は我慢強いが、それは会社への期待を下げた諦めに近い感覚も含んでいる」という声が聞かれるようになります。
この状態を放置すると、表面的には大きな不満を出さずに働き続けているように見えても、内心ではキャリアの主導権を会社に預けるのをやめ、「転職や副業も含めて、いつでも動けるようにしておく」心理に傾きがちです。人事やキャリア支援の立場では、この「静かな諦め」をどう手前で察知し、どう対話につなげるかが重要なポイントになってきます。
家庭と仕事の「2馬力」負荷 ― 母の罰と家計圧迫
30代はライフイベントとの重なりも大きい時期です。なかでも、出産・育児が重なる女性にとっては、キャリアと家計の両面で大きな影響が出やすくなります。日本では女性の正規雇用率が25〜29歳で59.7%とピークを迎えた後、30代に入ると一気に低下し、いわゆる「L字カーブ」を描くことが知られています。
いわゆる「母の罰」と呼ばれる現象も深刻です。第一子出産後、女性の就業率は約30%低下し、同時期の賃金は約50%減少するとされています。生涯可処分所得という視点で見ると、出産後も正社員として働き続けた場合と比べて、約8,700万円もの差が生じる試算もあります。家計の観点から見ても、これは非常に大きなインパクトです。
一方で、教育費の前倒し負担も30代の家計を圧迫しがちです。小学校受験や中学受験を見据え、年中の段階から月4万円前後の塾通いを始める家庭も増えています。大手塾では、5〜6歳児向けの中学受験準備コースを月額8,800円程度で提供し始めており、「もっと早くから動いた方がよいのではないか」というプレッシャーも強まりやすい状況です。こうした中で、共働きで家計を支えつつ、子育てとキャリアの両方を守らなければならないという「2馬力の負荷」が、30代を精神的にも追い込みやすくなっています。
年収とキャリアの「伸びしろなし」感 ― 転職市場のリアル
その結果として、「今の会社にいても収入もスキルも伸びないのではないか」という焦りから、転職市場に目を向ける30代も確実に増えています。データによると、直近5年間で30代の転職希望者数は約1.75倍に増加しました。転職理由としては、「収入アップが見込めない」「スキルアップの機会が少ない」「長時間労働が常態化している」といった項目が上位に並びます。
ただし、転職さえすれば状況が好転するとは限りません。年収ベースでの「成功率」(転職後に年収が増えた人の割合)は40.6%にとどまり、逆に年収が下がった人も29.3%います。増加額のボリュームゾーンは10〜50万円程度で、大きく伸びたケース(100万円以上アップ)は約10.3%。つまり、3人に1人近くが収入面では「転職してもあまり変わらない、もしくは悪化した」と感じている状況です。
キャリア支援や人事の立場からすると、「転職か残留か」の二択を迫るのではなく、社内でのロールチェンジや学び直し、副業との組み合わせなど、複線的なキャリアの描き方を提示できるかどうかが鍵になります。「伸びしろがない」のではなく、「伸びしろの見せ方」が足りていない可能性も高いからです。
国際比較が示す「日本的雇用慣行」の問題点




「L字カーブ」は日本特有の現象
ここで、日本の30代を取り巻く状況を国際比較の中に置いてみます。女性の正規雇用率の推移を日本・スウェーデン・デンマークで比べると、違いは明らかです。25〜29歳時点では、日本は59.7%、スウェーデン72.8%、デンマーク74.1%とすでに差が開いていますが、問題はその後です。日本では30〜34歳で48.2%、35〜39歳で42.1%と大きく低下する一方、北欧2カ国は30代に入っても70%台を維持しています。
| 年齢 | 日本 | スウェーデン | デンマーク |
|---|---|---|---|
| 25-29歳 | 59.7% | 72.8% | 74.1% |
| 30-34歳 | 48.2% | 71.5% | 72.8% |
| 35-39歳 | 42.1% | 70.9% | 71.6% |
この「30代に入ると雇用が落ち込む」L字型のカーブは、日本特有の構造問題を示していると言えます。具体的には、長時間労働前提の働き方、家事・育児が女性に偏りがちなジェンダー役割分担、そして一度非正規に移ると正規雇用に戻りにくい労働市場といった要因が複合的に影響していると考えられます。30代が「仕事か家庭か」の二者択一に追い込まれやすい環境そのものを問わない限り、個々人の頑張りだけでは乗り越えにくい状況が続いてしまいます。
北欧の「普遍的両立支援」モデルに学ぶ
対照的に、北欧諸国では「育児と仕事の両立」を特別なこととしてではなく、ほぼすべての人が経験する前提として政策が設計されています。たとえばデンマークでは、最大52週間の育児休業が用意され、その間の賃金の約90%が保障される仕組みがあります。さらに、子育て期間中は所定労働時間を25%短縮できる柔軟な働き方が制度として認められています。
保育サービスも公的に整備されており、1歳児から保育所を利用でき、保育料は所得に応じて決まりつつ上限が設定されています。企業側もこの前提を踏まえて人員計画や業務設計を行うため、「誰かが抜けてもチームでカバーする」働き方が当たり前として根づいています。その結果、出産や育児で一時的に離職した人が職場復帰する際も、正規雇用を維持できる割合が8割を超えるとされています。
日本との違いは、個々の制度の有無だけではありません。「両立は個人の努力」ではなく「社会全体の仕組みで支えるべきこと」と位置づけている点が本質です。日本企業が30代を支える際も、この視点を取り入れながら、「社内のルール」と「外部の制度」をどう組み合わせるかを考える必要があります。
企業の先進的取り組み ― 成功事例から学ぶ30代支援


住友生命保険:中堅社員の年収を最大5割引き上げ


国内企業の中にも、30代を中心とした中堅層の処遇と役割を見直す動きが出てきています。代表的な例が住友生命保険の人事制度改革です。同社は、従来の年次連動の資格給を大幅に圧縮し、業務内容や貢献度に応じた「役割給」に重心を移しました。その結果、30代を含む中堅層で、最大5割程度の年収アップとなるケースも出てきたと報じられています。
重要なのは、「年功か成果か」の二者択一ではなく、「中堅が担っている役割を適切に評価する」という発想に切り替えたことです。実際、改革後は若年層のエンゲージメントスコアが2022年比で10ポイント程度上昇し、30代の転職意向も目に見えて下がったとされています。賃金テーブルを変えることは簡単ではありませんが、「中堅にどの程度の期待と報酬を用意するか」が、30代のキャリア観にも直結する好例と言えるでしょう。
雪印メグミルク:キャリアビジョンを可視化する仕組み


もうひとつ注目される事例が、雪印メグミルクのキャリア支援施策です。同社は30歳と38歳を対象に、価値観や強み、今後の働き方を整理するワークショップを実施し、その内容を「キャリアビジョン策定シート」として可視化するプログラムを導入しました。単発の研修で終わらせず、シートを通じて本人と上司が対話できる土台をつくっている点が特徴です。
さらに2025年度からは、30歳を対象に社内キャリアコンサルタントとの面談を義務化する予定とされています。人材開発担当者は、「30代は組織の中でどんなキャリアを目指すのか迷いやすい時期だからこそ、会社側も伴走する姿勢を示したい」と語っています。会社としては、「辞めるかどうか」を見極める場ではなく、「今の会社の中でどんな可能性があるか」を一緒に考える時間として位置づけている点がポイントです。
キャリア支援者のための「30代支援」実践ガイド


待っていては間に合わない「プッシュ型支援」


では、人事やキャリア支援の立場で、30代にどのように関わっていけばよいのでしょうか。リクルートワークスの古屋星斗氏は、「企業に求められるのはプッシュ型支援だ」と指摘します。つまり、社員からの要望を待つプル型ではなく、「このタイミングでこの支援が効果的だ」と見立てて、先に打ち手を提示していくスタイルです。
たとえばキャリア研修であれば、「希望者のみ募集」ではなく、30歳到達時に自動的に受講予約が入る仕組みに変えることで、参加率を大きく高めることができます。1on1面談も、部下からの申請制にするのではなく、四半期ごとに上司側に実施を義務づけることで、離職率が大幅に下がった例があります。社内公募制度についても、掲示板に情報を出して終わりにするのではなく、全社員に案内メールを送り、「あなたの経験ならこのポストも候補になり得る」と具体的に提示することで、応募数が数倍に増えた企業も出てきています。
| 施策 | プッシュ型 | プル型 | 効果指標 |
|---|---|---|---|
| キャリア研修 | 30歳到達時自動的に受講予約 | 希望者のみ募集 | 受講率85%↑ |
| 1on1面談 | 四半期ごとに上司が必ず実施 | 部下からの申請制 | 離職率30%↓ |
| 社内公募 | 通知を全員に配信 | 掲示板での情報開示のみ | 応募率3倍↑ |
プッシュ型支援の鍵は、「お節介になりすぎない範囲で、背中をそっと押すこと」です。あくまで選ぶのは本人ですが、その前段階として「選択肢に気づいてもらう」「一歩踏み出しやすいきっかけをつくる」ことが、人事やキャリア支援者の役割と言えるでしょう。
中堅向け研修を成功させる10の原則


30代支援の代表的な打ち手として、中堅社員向け研修があります。ただ、現場からは「忙しいのに座学を詰め込まれただけで終わった」「受講後の変化が見えない」といった声も少なくありません。こうした失敗を避けるために、日経ビジネススクールの分析などを踏まえた設計のポイントを整理すると、次の10点が重要になります。
- 研修内容を受講者の日常業務の課題と直接結び付けること。実務と切り離されたテーマ設定は避ける。
- 中堅社員がすでに持っている知識・経験を前提にし、その応用や再整理を促す構成にすること。
- 研修修了が昇進や評価とどう結び付くのか、事前にルールを明示しておくこと。
- まとまった数日研修だけでなく、業務の合間に受講できる短時間セッションを複数回組み合わせること。
- 研修期間中の業務負荷を調整し、必要に応じてメンターやサポーターを配置すること。
- 講義一方通行ではなく、ディスカッションやケーススタディなど、双方向の学びを中心にすること。
- 最新の技術動向や市場環境など、自社内では補いづらいテーマは外部専門家を活用すること。
- 研修前後でスキル診断やアンケートを実施し、学びの変化を可視化すること。
- 経営層がメッセージを発信し、中堅に対する期待や研修の位置づけを自ら言葉にすること。
- 受講者からのフィードバックを半年ごとに分析し、プログラム内容を継続的に改善していくこと。
これらを押さえることで、「やらされ感の強い研修」から「自分のキャリアと組織の未来の両方を考える機会」へと位置づけを変えていけるはずです。
金融機関・IT企業の実践事例
実際の企業事例を見ると、30代支援の打ち手は決して特別なものではなく、「少しの設計の工夫」で成果を上げていることが分かります。たとえば、ある金融機関のIT部門では、中堅エンジニアを将来のリーダー候補として育てるために、「テクノロジー&トレンド」と題した月次セミナーを実施しています。外部の専門家が最新技術を解説した後、自部門での応用アイデアをチームごとに発表するスタイルをとった結果、リーダーシップ評価が向上し、エンゲージメントスコアも15ポイント程度上がったといいます。
また、あるIT企業では、「決算短信セミナー」を四半期ごとに開催し、財務分析の専門家が実際の自社・他社の決算短信を使ってケーススタディを行っています。これにより、エンジニアやスタッフ職でも自社の業績と自分の仕事の関係性をイメージしやすくなり、部門目標へのコミットメントが高まったと報告されています。結果として、数年単位で見ると離職率も25%程度減少したとされています。どちらの事例も、「30代に任せたい役割」を明確にし、それに必要な視点や知識を提供している点が共通しています。
政策・制度の活用法 ― 企業が押さえたい公的支援




教育訓練給付制度と新設される休暇給付金
30代支援を考える際には、社内制度だけで頑張りすぎず、公的な支援策を上手に活用する視点も重要です。代表的なのが厚生労働省の「教育訓練給付制度」です。これは、一定期間以上雇用保険に加入している人を対象に、厚生労働大臣が指定した講座を受講する場合、受講費用の最大80%(年間64万円を上限)を国が支給する仕組みです。
2025年10月からは、学び直しのための「教育訓練休暇給付金」も新設されます。これは、企業が制度として教育訓練休暇を設けている場合、その休暇取得中の賃金の50〜70%を最長1年間支給するもので、中長期のリスキリングにも現実味が出てきます。30代のタイミングでMBAや専門職大学院、DX関連の資格取得などにチャレンジしやすくなる制度と言えるでしょう。
| 制度名 | 対象 | 給付率 | 上限額 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 教育訓練給付金 | 雇用保険3年以上加入者 | 最大80% | 年間64万円 | 厚労大臣指定講座 |
| 教育訓練休暇給付金 | 企業に休暇制度ありの者 | 賃金の50-70% | 最大1年 | 2025年10月新設 |
また、税制面でも、2024年度改正で「特定支出控除」の証明方法が拡充され、会社の証明だけでなく、国家資格キャリアコンサルタントの証明でも対象経費と認められるようになりました。社員が自発的に学び直しを進める際、人事やキャリアコンサルタントが制度の案内役になれるかどうかで、行動のしやすさが変わってきます。
人材開発支援助成金で教育投資を後押しする
企業側の視点では、「人材開発支援助成金」をどう活用するかもポイントです。これは、社員の職業訓練にかかる費用の50〜70%(コースによって異なる)を助成する制度で、1人あたり年間120万円程度までが上限とされています。人材育成支援コースや教育訓練休暇付与コース、事業転換に伴うリスキリング支援コースなど、目的に応じて複数の枠組みがあります。
たとえば、30名規模の企業が年間1,000万円を教育投資に充てたケースを考えてみます。助成率70%のコースを活用できれば、700万円が助成され、実質負担は300万円に抑えられます。ある企業では、このような制度活用とあわせて30代向けの研修・資格取得支援を進めた結果、数年で離職率が35%から18%まで下がった例も報告されています。人材育成が単なるコストではなく、「助成金を組み合わせることで、投資として成立する」という見方を社内に浸透させることができれば、30代に対する支援策も展開しやすくなります。
キャリア支援者への提言 ― 明日から始める30代支援




即効性のある3つのアクション
最後に、キャリア支援者・人事担当者が、明日からでも取り組めるアクションを3つに絞って整理します。
1つ目は、「30代の声なき不満を拾う仕組み」をつくることです。たとえば月1回、30分だけオンラインや対面で「雑談カフェ」を開き、30代前後の社員が気軽に話せる場をつくります。ここは経営層ではなく、人事やキャリアコンサルタントがファシリテートし、そこで出た声を匿名アンケートとあわせて整理し、四半期ごとに経営層に共有します。これにより、表面化しにくい不安や不満を早めにキャッチできるようになります。
2つ目は、「キャリア自律プログラム」を30歳到達時の強制イベントにしてしまうことです。自己分析・市場動向・自社の戦略を学ぶ3本立てのプログラムを用意し、30歳になったタイミングで自動的に受講予約が入る仕組みにします。受講後は必ず上司かキャリアコンサルタントとの1on1面談を設定し、具体的なキャリアプランを一緒に言語化していきます。
3つ目は、「中堅社員の日」を社内イベントとして設けることです。年1回、30代の社員を対象に、「仲間を育てた」「新しい仕組みを提案した」といった観点で表彰し、経営陣が直接感謝を伝える場をつくります。評価制度だけでは伝わりにくい「期待」と「信頼」を、分かりやすい形で表現することで、30代の自己効力感を高めていく狙いです。
中期的に取り組みたい人事制度の見直し
中期的なテーマとしては、報酬と評価の仕組みをどう30代目線で整えていくかが重要になります。具体的には、現在の賃金体系の中にどれだけ年功的な要素が残っているかを可視化し、数年かけて役割給の比率を高めていくことが考えられます。たとえば、現状30%程度である役割給の割合を、段階的に60%程度まで引き上げるロードマップを描き、30代を中心に市場価値調査を行いながら水準を調整していく方法です。
また、「失敗しても大丈夫」と感じられる評価制度も欠かせません。新規プロジェクトの失敗率をKPIに含めないようにすることや、失敗からの学びを共有する「失敗報告会」を制度化することで、チャレンジ自体を前向きに捉える文化を醸成している企業もあります。ある製造業では、この取り組みによって重大事故が60%減少したと報告されています。30代が安心して挑戦できる仕組みを整えることは、そのまま企業のイノベーション力にもつながっていきます。
長期的に目指す企業文化の変革
より長い視点では、「終身雇用」や「多様性」の意味合いをアップデートしていく必要があります。終身雇用については、「雇用の安定」を約束するのではなく、「成長の安定」を約束する発想への転換が求められます。たとえば、社内転職制度を整備し、毎年社員の10%以上が別部門や別職種にチャレンジできるようにすることや、副業・兼業を一定条件のもとで認めることで、社員の成長機会を社外にも広げる取り組みが挙げられます。
多様性の面では、30代女性の管理職比率を年平均5ポイントずつ引き上げる目標を置いたり、LGBTQ+や障がいのある社員のキャリア支援を30代支援と連動させたりすることも一案です。これらの指標を「多様性指数」として整理し、IRなどで外部に開示している企業も増えています。30代が「自分の背景やライフステージが会社の成長と矛盾しない」と感じられる文化をつくることが、結果的に優秀な人材の定着と採用力強化にもつながっていきます。
総括――30代支援は企業の「成長投資」




ここまで見てきたように、「惑う30代」は日本経済全体の盲点である一方で、企業にとっては大きな成長機会でもあります。リーマン震災世代を中心とした30代は、厳しい環境の中でキャリアをスタートさせた分、変化に適応する柔軟さや粘り強さを持っている世代でもあります。この世代に対して、会社がどのような期待と支援を示すのか。それが、今後10〜20年の組織の競争力を左右するといっても大げさではありません。
最後に、30代支援を考える上でのキーワードを整理すると、次の5点になります。
- データに基づく理解:30代不足は感覚ではなく、統計に裏づけられた構造的課題である。
- プッシュ型支援:社員の声を待つのではなく、タイミングを決めて支援を打ち出す姿勢が重要である。
- 成果と役割に応じた処遇:年功的な枠組みを見直し、中堅の役割を適切に評価する。
- 公的制度の活用:教育訓練給付や助成金などを組み合わせ、学び直しと育成を現実的な選択肢にする。
- 多様性と両立支援:30代のライフイベントとキャリアが両立できる文化と制度を整える。
30代が「迷う」ばかりで立ち止まるのではなく、「挑戦できる」環境をどこまで整えられるか。その問いに向き合うことが、日本企業が次のフェーズに進むための第一歩になるはずです。












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